往復書簡 6
本企画の演出を担当する田中秀彦と企画プロデューサーの百瀬友秀による往復書簡です。


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田中秀彦
コスチュームアーティスト、演出家
百瀬友秀
演出家

 

百瀬様

 僕が舞台を演出する上で大切にしている事のひとつとして、「テーマパークからの観客の奪還(笑)」というのがあります。そもそも、演劇は緊迫感や臨場感を伴ったものだったはずです。しかし、現在ではミュージシャンのコンサートやテーマパークの方が断然に臨場感や緊迫感が味わえるのは確実です。かくいう僕も友達の芝居を観に行くより、マドンナのドームライブやUSJのスパイダーマンに行きたいですもん(笑)。かつて、観客と舞台との間に隠密に交わされていた「想像の契約」は、デジタル革命以降必然的に破棄されていき、観客の背骨は椅子の背もたれにどんどん密着していったのだと思います。想像力を働かせずにふんぞりかえっていても、大画面の中ではショッキングな事が勝手に次々と起こるのですから。このような「想像力の低下」「皮膚感覚の不感症」の問題に向き合いたいと思っています。百瀬さんの言葉をお借りすれば「感性の開発」ということになるでしょうか。

質問ですよね。「具体的に作品を作る俳優とは、どのような能力を持った人間か」今回は、作品の具体的なイメージを固めた上で創作を行う予定ではありませんので、参加されるパフォーマーに対して求める能力種別はありません。あるとするならば、物事を何らかの身体表現技術を通して考えた事のある人、ということでしょうか。

「演出家として抱く理想の俳優像」広い視野で人類の芸術的表現の歴史に目が向いていて、特定の条件を理解した上で、自分の目的を設定できる人。あらゆる表現の可能性を理解し、且つ自分自身なら何をするべきかを考えられる事が理想だと思います。 理想って、理想ですよね〜。。。
五月晴れの午後に
田中秀彦