体 験 W S 開 催
6月1日の月曜。リニューアルしたばかりの大阪in→dependent thatre 1stにて、M.S.P 09にむけての説明会と無料体験WSが行われました。
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田中秀彦
コスチュームアーティスト、演出家

 

 6月1日(月)M.S.P09に向けての説明会と、本企画の担当講師である田中秀彦氏による体験創作ワークショップが行われました。会場であるin→dependent theatre 1stは、壁の色や舞台袖、楽屋スペースや専用のロビーフロア等、来場する観客への配慮は勿論、劇場を使用する側への使い易さという点でも抜本的なリニューアルを遂げており、ただ単に充実した設備が整っているだけの劇場施設にはない、生きた劇場として、独特の雰囲気を持った空間となっていました。ここには劇場プロデューサーである相内氏のこれまでの経験が形となって反映されているのだろうと思います。

ワークショップは平日ということもあり、参加者の都合も考え、2回に分かれて行われました。参加者の顔を見てから考えたい、という田中氏の意向により、カリキュラムは大まかな方針以外は決めずに行われ、実際に2回行われたワークショップの内容はそれぞれ違うものでした。


■背中を壁につけ、姿勢を矯正していく
昼の回は、俳優ではない方々(衣裳デザイナーやヘアメイクアーティスト)が多く参加されていましたが、通常見られない発見と盛り上がりを見せるワークショップとなりました。具体的な内容について可能な限り紹介しようと思います。

 まず、壁に背をつけて立ち、そこから「姿勢」を矯正していきます。日常的には「姿勢」を正すことは「曲がっている」等の視的な情報から修正を試みますが、本ワークショップでは自らの体感と感覚からの矯正を試みることから始めていました。田中氏の指摘により参加者の身体が少しずつ修正され、まっすぐに立つことを発見していく光景は、どこかピアニストが演奏の前に行う調律のようにもみえました。その調律を終え、意識と身体とが共鳴できる状態になった上で、参加者は舞台にあげられます。

■まつ毛を触るよう指示を受ける
田中氏はまず、指示した身体の部所を触るように言いました。「頭、肘、肩・・」と身体のあらゆる箇所が指示され、参加者はその通りに触っていきます。そして「まつ毛」と言われた時に、ストップがかかり、それぞれの触り方をみると、田中氏は「こんなにそれぞれが違う触り方なんです」と説明しました。氏曰く、「頭、腕」等を触る際にはある意味でおおざっぱであり、まつ毛を触る、という時になって初めて「繊細」になるのだそうで、そこに「個性」が生まれるとのことでした。続けて、「左手を顔から一番遠く!」などの指示がとび、そのように参加者は身体を動かして行きます。そして、一通り動いた後、出来たフォルムを「普段自分では絶対生み出せない型」であると田中氏は言いました。つまり、我々は日常的にある程度決まった動きと理屈の中で身体を使っており、それ以外の使い方はまだ沢山あるということです。当たり前のようにつきあっている自らの身体に、まだあらゆる可能性がある、ということを参加者は発見しているようでした。

■頭では考えられないフォルムが次々に生み出される
次に参加者は円陣になり、見えないボールを使ったキャッチボールを始めました。「見えないボール」を使っているので、当然「あるかのように」してキャッチボールをすすめます。皆、面白半分で遊びながらやっているのですが、田中氏の指摘により徐々にその「あるかのように」の精度が あげられていきます。まずは、投げ方、そして受け取り方、更には投げる相手との関係にまでチェックは及んで行きます。「遊び」から始まった空想キャッチボールが舞台上の表現としてのキャッチボールに変わって行きます。ただし、それはあくまでも身体や関係性への意識を「繊細」にしていくことによって作られていきます。ここまでで約1時間しか経過していないのですが、参加者は舞台に立つ上で重要な部分を、遊びながら無理なく身体で理解し実践する迄になっているのです。田中氏の参加者の状態をみる鋭い視線と、巧みなアドバイスのなせる業だと感服しました。

■田中氏自らが演じてみせる
昼の回の最後は二人で向かいあって「こんにちわ」という一語を交わす、というシンプルな関係構築を行いました。交わす言葉は一語のみですので、参加者はあらゆる手段をつかって向かい合う相手に伝えることを試みます。上述の通り、参加者は舞台俳優ではない人が多数でしたが、逆にシンプルに氏の言葉が参加者に届いたようで、驚く程のスピードで成長していく参加者に、田中氏自身も驚いている様子でした。恐らく氏の能力の一つに、その人の能力を無理なく引き出す、ということがあるのだとは思いますが、参加者にとっても非常に有意義なワークショップになったと思います。

 夜の回には主に舞台俳優の方々が集まりました。大阪のみならず奈良県から参加された方もいらっしゃり、昼の回とは違ったものになるという予感の中、坂本龍一の軽快なピアノをBGMに、全員円陣になり身体をほぐすことからワークショップは始まりました。やはり、それぞれあらゆる舞台を経験し、実際に身体を使うことを専門にしている人ばかりなので、すでにある一定の「繊細」さを生み出せる能力をもっているようでした。

■身体を使って森の中を作る
当然そこから田中氏が更にどういったアプローチにより内容を深めていくかに注目が集まります。期待が膨らむなか田中氏は参加者に今回の創作作品である坂口安吾の「桜の森の満開の下」の一部分を配り始めました。どうやら1シーン作り始めるようです。驚くべきは田中氏の、参加者の能力や伸びしろを瞬時に判断し、創作が可能とみるや直ぐに作品を作り始める貪欲なまでの創作意欲と、それを可能にするイメージの立ち上げの早さです。参加者の人数や経歴や能力を前もって知る事はできないので、「出会い」から僅かの時間にその参加者と共に作り上げる作品のイメージを生み出さねばなりません。田中氏はその環境下でも、勝手なイメージによる創作ではなく、そこに集まった参加者の力を最大限に利用しての創作を試みます。その証拠に、3グループに分かれて作られたシーンは、テキストこそ同じものですが、まるで別のものになりました。

■坂口安吾の台詞に取り組む参加者
ある固定したイメージを俳優に植え付けるのはなく、俳優の能力(可能性)によりイメージを膨らましていく氏の方法は、まさしくその場の環境と、その俳優でしか生み出せない空間を生み出していきます。田中氏はシンプルに、その時間、その場所にあるモノや存在するもの(参加者も含め)全てを使って作品を作るのです。その純粋かつ強固な視線に創作者の真摯な姿勢を感じました。更に驚嘆すべきは、この一連の流れを「遊び」の延長線のように、楽しみながらこなしていくのです。

 

■ワークショップ後の懇親会の様子

ワークショップ終了後、2Fのロビーで交流会が開かれました。その日会った参加者は既に「共演者」となって語り合い、それを微笑ましく見守る田中氏の姿が印象的でした。恐らく、8月の天川村でのワークショップでは、周囲の大自然や築120年の古民家という環境と、参加者の能力の全てを使った繊細な作品が生み出されるのだと思います。